妊娠中の歯肉炎
妊娠中はホルモンバランスの変化から歯周病を発症しやすくします。
体調不良も生じ、生活の不規則などから口腔内の衛生環境が不順であると余計に炎症が生じやすくなります。「妊娠性歯肉炎 pregnancy gingivitis」、これが妊婦さん特有の歯肉炎の名称となります。
妊娠中の患者さんへの配慮
妊婦さんに無理のない適切な処置
主原因はプラークですが、エストラジオールなどの性ホルモンを栄養源とする細菌(Prevotella intermediaなど)が増殖し、歯肉炎が発症します。
歯肉に発赤、腫脹が見られ出血もしやすくなります。
基本的な処置はしっかりとしたプラークコントロールになります。歯科医院で歯石を除去したりする治療は妊娠安定期(4~8ヶ月)に行うことが良いとされます。症状が大きい場合は応急処置などで負担がかからない範囲での治療を行います。
妊娠中の
口腔内ケアについて
体調が優れず歯磨きが難しい場合があれば以下のような方法も試してみてください。
小さい歯ブラシを使用する
口に歯ブラシを入れること自体が厳しい場合、小児用など小さいものを使用することも方法です。
水分摂取をしっかりと行う
口の中が乾燥すると細菌の繁殖が起こりやすく、また口臭の原因ともなります。ただし、虫歯になりやすくなるような糖分が多く含まれた飲料は控えてください。
キシリトール含有のガムを噛む
ガムの咀嚼により唾液の分泌を促し、自浄作用からプラークの停滞を少なくさせます。
以上のようなことを試し、体調が良い時にはしっかりと歯磨きを行うようにしてください。歯磨剤も気持ち悪ければつけずに行うことも可能ですので、まずはプラークを口の中から少なくすることが基本となります。
妊娠中の歯科治療
Q. 妊娠中の歯科治療の
ベストな時期
A.安定期(16~27週)での歯科治療が最も良いとされます。
特に妊娠初期や後期では胎児や母体への影響も考えられることから、簡単な応急処置などで対応してもらうことが良いとされます。
Q. 歯科治療時の麻酔使用について
A.一般的に歯科治療で使用される局所麻酔(2%リン酸リドカイン)では胎児や母体への影響はほとんどないと言われています。しかし敬遠されてしまうのも事実ではあるため、止むを得ない場合は16週以降の安定期が望まれます。ただし、痛みや激痛によるストレスを抱えての生活を過ごすことの方が身体に悪影響を及ぼすこともありますので、症状がある場合は歯科医院にご相談ください。
Q. 痛み止めなど薬の服用について
A.妊娠中は胎盤を通じて薬物の影響が胎児に及ぶため控えることが望まれます。特に妊娠初期には胎児の臓器や器官といった重要な組織が形成される時期のため使用を避けます。
もし薬の服用を控えることで母体への負担が強くなる場合は、胎児への影響が少ないタイプの薬を最小限服用することをします。
授乳中は母乳への影響はほとんどないため避ける必要はないと言われますが、不安であれば薬の服用前に授乳を済ませておくことをお勧めします。
Q. X線(レントゲン)
撮影について
A.歯科治療時にX線撮影を行う場合、防護服を着用することや腹部から離れた部位の撮影となるため胎児への影響はほとんどありません。
また歯科治療のX線の放射線量は非常に微弱で自然放射線量の方が多いことがほとんどです。ただし、不必要に撮影する事は避けるべきですので、症状に応じて担当医とご相談ください。
Q.妊娠中の喫煙とお酒について
A.喫煙は発育遅延や流産・早産・低体重児出産の可能性が生じます。また出産後の副流煙も突然死症候群などのリスクにもなるため控えるようにしてください。妊娠中の大量の飲酒は胎児の先天異常・発育遅延を引き起こすことがあると言われます。妊娠期間を通じて禁酒することが推奨されます。
妊娠中の口腔内のケア
Q. つわりがひどく
歯磨きできない場合
A.まずは体調が落ち着く頃を待って歯磨きをしてみてください。その際に小さい歯ブラシを選択すると負担が少なくなります。
全く口の中に歯ブラシなどが入れられない時は洗口剤を利用することもありです。味がダメなときは水でのうがいだけでも結構ですので行うようにしてください。
Q. 歯磨き習慣の見直し
A.お母さんや家族の生活習慣は子供の口腔内環境を作ると言っても過言ではありません。歯周病も妊娠中の胎児への影響があることは報告されています。もし妊婦であるお母さんが虫歯や歯周病の状態があると、それが伝播するリスクがあります。出産前に歯磨きの習慣の見直しや口腔内の衛生環境の保全に努めてみることをお勧めします。
Q. 妊娠中のうがい薬について
A.ポピドンヨード(ヨウ素)を含むうがい薬は控えることをお勧めします。ヨウ素は過剰に摂取すると甲状腺機能に悪影響を与えることもあり、妊婦と胎児共にリスクがあります。
Q. 食生活の改善
A.妊娠中のお母さんの食事が赤ちゃんの成長には大きく影響します。歯の成長も同じです。タンパク質やカルシウム、ビタミンなど歯の基礎となる栄養分を摂取することは重要です。バランスよく食べ、適度な運動と健康に心がけてください。
授乳中の患者さんへ
Q. 授乳中のお薬の使用について
A.授乳中のお母さんのお薬の服用による赤ちゃんへの影響を心配されることが多いかと思います。実際のところ、母乳への移行する量は非常に少ないことがわかっており、赤ちゃんへの影響は少ないと言えます。お母さんの状況がひっ迫している場合はお薬の服用をしないといけない場合があると思います(病状が悪くなって子育てができないことは避けたいですよね)ので、その際は主治医の先生と相談しながら決めることをお勧めします。